長音

転呼したハ行から母音が脱落してできたウ(ハ行からのウ音便)はfとする。フはfに成らない。
ただし、次の場合ではfをuに変える。
・ウがhの使用条件に当てはまる場合(f >hu)
・ウが語頭である場合(f >u, 語頭のuはhuと対応するから)
・その他、母音字であることを要求される場合
※ハ行四段活用動詞の連用形などで促音化している例の多い拍だが、fとuの音価が合流した後にfの音価だけを促音に変化させるのは不自然と考えた。
※ハ行転呼の成立(仮名遣の混乱は11世紀初め頃から)に対してウ音便形の発生が早過ぎる様に思われる語も便宜的にこれに含めた。

妹人 >妹[いもうと・イモート]: Imawfito* >Imawftó
弟人 >弟[おとうと・オトート]: Otofito* >Otoftó
兄人[せうと・ショート]: Sefito* >Sefto*
素人[しらうと/しろうと・シロート]: Sirafito*/Sirawfito* >Siráfto/Siráwfto
男人 >夫[をうと・オート]: Vofito* >Vofto*
舅[しうと・シュート]: Sifito* >Sifto (※1)
箒[はうき・ホーキ]: Xaxaki* >Xafaki* >Xafki
請うて[こうて・コーテ]: kofite* >kófte
問うて[とうて・トーテ]: tofite*/tawfite* >tófte/táwfte
言うて[いうて・ユーテ]: ifite* >ifte*
蝙蝠[かうもり・コーモリ]: Kafaxori* >Káfmori
河本[かうもと・コーモト]: Kafamoto* >Káfmoto
河骨[かうほね・コーホネ]: Kafaxone* >Kafxone
河内[かうち・コーチ]: Káfati >Káfti
向かう[むかう・ムコー]: Mukafi >Mukáf (※2)
相撲[すまう・スモー]: Sumafi >Sumaf (※2)
まう・モー(既に): ima* fa* >máf (※3)
cf.
河内[かふち・コーチ]: kafa*+uti* >Káfuti
河内[かうち・コーチ]: ka*+uti* >Káuti
白粉[はふに・ハウニ]: Xakuxun* >Xaxuni* >Xafüni*
蔵人[くらうど・クロード]: Kurabito* >Kuramdo* >Kuráudo
秋保[あきう]: Akifo* >Akif* >Akihu*
東人[あづまうど]: Adumabito* >(Adumamdo*) >(Adumaudo*) >Adumahudo*
甲[かふ・コー]: Káfu
向かふ[むかふ・ムカウ]: mukafü
向かふ[むかふ・ムコー]: Mukáfü (※2)
争ふ[すまふ・スマウ]: sumafu*
相撲[すまふ・スモー]: Sumafu (※2)
もう・モー(更に): ima* >ma* >mo* >mou (※3)
まあ・マー(更に): ima* >ma* >maa* (※3)

※1: 「シヒト」の「ヒト」の上代特殊仮名遣が「人」のそれと一致しているので、この様な語形変化があったのだろうと考えた。

※2: 連用形からとする説ではf、連体形からとする説ではfuとなる。しかし、『日本国語大辞典』を見る限りでは後者の説を支持する為の根拠が見当たらないので、個人的には前者の説を支持しておく。

※3: 一般的な解釈ではないが、下記に基づく。(Twitterにて着想を得た後、意味によって分けた)
・「いまは」には「更に」の意味が無い。
・「いま」やその変化形「ま/まあ」には「既に」の意味が無い。
・「更に」の意味に於いては「もう」より「も」が100年以上先行して文献に現れる。

「既に」系:
905~914 今ははや(いまははや)
970~999頃 今は(いまは)
1603~04 Imafaya(いまはや)

1435頃 もはや
室町末~近世初 も

1477 まう(開合の区別のある時代)
1603~1604 Mǒfaya(まうはや)

※「もはや」が「まう」よりやや早いのは気になるが、開音となる為には「いまは>まう」の変化があったと考えるのが妥当なのではないか。

「更に」系:
8C後期 今(いま)
970~999頃 いま一(いまひとつ)
970~999頃 いますこし
1108頃 今一度(いまいちど)
1910 いまっと
1981 今イチ(いまいち)

1420 まちっと
1477 まっと
1500頃 まちと
1500頃 ま一つ(まひとつ)
1529頃 ま
1529頃 ま一度(まいちど)
室町末~近世初 まそっと
1906 ますこし

室町末~近世初 もそっと
1660 も一つ(もひとつ)
1681 もちっと
1730 も
1770 もっと
1770 もちゐと(もちいと)
1772~1817 最一(もいち)
1809~13 もちと
1825 も少(もすこし)

1703 まあ

1773 もふ一(もうひとつ)(開合の区別の無い時代)
1790 最う(もう)


オ段の長音に変化したafo/avoがウ音便として扱われていない場合でも、下記の仮名遣に基づいて全て/o/の脱落として扱う。
※ただし、「ハ行転呼の後かつオ/ヲの合流の前」という期間に起きた語形変化ではないことが判明した場合、母音交替として扱う必要があると思われる。afo>afu, avo>au
※/o/の脱落とみなし得る期間が非常に短い為、母音交替での処理を優先すべきかも知れない。

直会[ノーライ]:
ナフラヒ 日本書紀〔720〕持統元年八月(北野本訓)
ナウライ 色葉字類抄〔1177〜81〕
なうらい 古活字本毛詩抄〔17C前〕一三
ナウライ 布令字弁〔1868〜72〕〈知足蹄原子〉三
*日本書紀北野本は平安末期のものなのでハ行転呼の完了より後。もし前なら母音交替とみなしNafurafiとなる。

赤魚/緋魚[アコー]:
アカウ 書言字考節用集〔1717〕五

青梅[オーメ]:
アフメ 談義本・当世下手談義〔1752〕
アウメ 小学生徒改良衣服裁縫伝授〔1886〕

直会[なほらひ >なうらひ・ノーライ]: Naforafi* >Nafrafi*
直衣[なほし >なうし・ノーシ]: Nafosi* >Nafsi
直方[なほがた >なうがた・ノーガタ]: Nafogata* >Nafgata
赤魚/緋魚[あかを >あかう・アコー]: Akavo* >Akau
赤穂[あかほ >あかう・アコー]: Akafo* >Ákaf
青梅[あをめ >あうめ・オーメ]: Avomay* >Áumay
真岡[まをか >まうか・モーカ]: Mavoka* >Mauka
素襖[すあを >すあう・スオー]: Suhavo* >Suháu
cf.
素袍[すはう・スオー]: Sufáu


基本的にgはガ行の子音字だが、平水韻で下記の韻に分類される字音の韻尾のウやイは共にgとする。
平水韻: 東/冬/江/董/腫/講/送/宋/絳陽/庚/青/蒸/養/梗/迵/漾/敬/径
ただし、一拍のみで構成される字音など、母音字であることを要求される場合を除く。
直前の母音字によってウかイかが明確に定まるので混乱は起きない。(ug/og/agならウ、egならイ)
「相模/双六/愛宕」など、韻尾をガ行で表した例がある。詳しくは本居宣長の『地名字音転用例』を参照。
「うむの下濁る」と言われる様に、この種の字音の直後では連濁が起きやすかった。
gに母音的な音価を持たせている例として、ゲルマン語派トルコ語(ğ)を参考にした。

東京[とうきゃう・トーキョー]: Togkyag
通行[つうかう・ツーコー]: Tugkag
交通[かうつう・コーツー]: Kautug
同僚[どうれう・ドーリョー]: Dogreu
同量[どうりゃう・ドーリョー]: Dogryag
冬至[とうじ・トージ]: Togzi
当時[たうじ・トージ]: Tágzi
妙齢[めうれい・ミョーレイ*]: Meureg
情景[じゃうけい・ジョーケイ*]: Zyagkeg
映像[えいざう・エイ*ゾー]: Egzag
重要[ぢゅうえう・ジューヨー]: dyugheu
中国[ちゅうごく・チューゴク]: Tyúggoku
香草[かうさう・コーソー]: Kagsau
西洋[せいやう・セイ*ヨー]: Séijag
正解[せいかい・セイ*カイ]: Segkai
正月[しゃうぐゎつ・ショーガツ]: Syaggwatu
証拠[しょうこ・ショーコ]: Syogko
証明[しょうめい・ショーメイ*]: Syogmeg
照明[せうめい・ショーメイ*]: Seumeg
明星[みゃうじゃう・ミョージョー]: Myagzyag
金星[きむせい・キンセイ*]: Kimseg
丁寧[ていねい・テイ*ネイ*]: tégneg
包丁[はうちゃう・ホーチョー]: Xautyag
しさうだ・シソーダ(「相」説): sisag da
するさうだ・スルソーダ(「相」説): suru ság da
通じる[つうじる・ツージル]: tugziru
応じる[おうじる・オージル]: ogziru
命じる[めいじる・メイ*ジル]: megziru
勝事 >笑止[しょうし・ショーシ]: Syogzi* >Syógsi/Séusi
硫黄[いわう・イオー]: Ivag
cf.
熊[う]: u*
礼儀[れいぎ・レイ*ギ]: Reigí
税金[ぜいきむ・ゼイ*キン]: Zeikim
継続[けいぞく・ケイ*ゾク]: Keizoku
表現[へうげん・ヒョーゲン]: Xeugén
料理[れうり・リョーリ]: Réuri
調合[てうがふ・チョーゴー]: Teugafu
円柱[ゑんちゅう・エンチュー]: Ventyuu
住所[ぢゅうしょ・ジューショ]: Dyúusyo
牛乳[ぎうにゅう・ギューニュー]: Giunyuu
余裕[よゆう・ヨユー]: Jojuu
法曹[はふさう・ホーソー]: Xafusau
爆笑[ばくせう・バクショー]: Bakuseu
北条[ほうでう・ホージョー]: Xóudeu
拍子[ひゃうし・ヒョーシ]: Xuakusi* >Xyausí
公孫樹[いちゃう・イチョー]: Ityau(「ヤーチャオ」という音声転写から)
しさうだ・シソーダ(「様」説): sisau da
するさうだ・スルソーダ(「様」説): suru sáu da
硫黄[いわう・イオー]: Juva*/Juvau* >Ivau


とりあえず『日本国語大辞典』に従っておくが、「中/龍」などの字音仮名遣が「チウ/リウ」のように「イ段+ウ」とされることもある。そちらに従う場合、 iの直後のgをイとして扱う必要が無いので読み方に混乱は起きないが、ウをgで書いて良いのかは検討する必要がある。この様なウの表す対象が韻尾だけに収まっていないのだとすれば、gを使ってはならないかも知れない。
また、アルファベットに付けられた記号はそのアルファベットに派生要素を加える為のものなので、uと起源の異なるこのウを記号付きのuで表すことは避けたい。
ちなみに、gの音価が非前舌母音u/o/aの直後でウ、前舌母音e/(i)の直後でイと成る方が綺麗なので、「チュウ/リュウ」のように「ウ段+ウ」として扱いたいという気持ちもある。
関連文献: 肥瓜周二(1995) 日本漢字音における喉内鼻音韻尾の鼻音性とその表記

何か問題があるとわかるまでの実験として、ガ行からの音便にもこのgを使ってみる。
ただし、子音脱落で説明できるものには使わない。

冠[かむむり・カンムリ]: Kagaxuri* >Kagburi* >Kamburi* >Kammuri
cf.
鵠[クビ]: Kugufi*(?) >Kubi*
雉[キジ]: Kigisi* >Kizi
稼いで[かせいで・カセイ*デ]: kasegite* >kaséide
泳いで[およいで]: ojogite* >ojóide
香ばしい[かむばしい・カンバシイ*]: kagufasi* >kaubasíi >kambasíi
※「香」の字音から「コーバシイ*」をkagbasíiとするのも認めてみる。


m撥音から変化したウは下記の理由からgではなくuで表記しておく。
・この種のウが鼻音性を保ったままで上記のgと音価が一致していた時代があったかどうか自分にはよくわからない
・発生した時代によってこの種のウが更に複数のグループに分けられる為、複雑である
・上記のgとは異なり、エ段やイ段の直後でもウとして現れる

神[かう・コー]: Kámuy/kamu* >kam* >kau*
神戸[かうべ・コーベ]: Kámbay >Káubay
上[かう・コー]: Kámi >kam* >kau*
上野[かうづけ・コーズケ]: Káudukay
三[ざう・ゾー]: Sam >(zam*) >zau*
省三[しゃうざう・ショーゾー]: Syagzau
ご覧ず[ごらうず・ゴローズ]: goramzu* >gorauzu*
日向[ひうが・ヒューガ]: Ximuka* >(Ximga*) >Xíuga
峠[たうげ・トーゲ]: Tamukáy >(Tamgay*) >Taugáy
笄[かうがい・コーガイ]: Kamikaki* >(Kamgai*) >Kaugai
手水[てうづ・チョーズ]: Temidu* >(Temdu*) >Téudu
麹[かうぢ・コージ]: Kamdati* >Kamti* >(Kamdi*) >Kaudi
麹[かうじ・コージ]: Kamosi* >(Kamzi*) >Kauzi
蔵人[くらうど・クロード]: Kurabito* >Kuramdo* >Kuráudo
商人[あきうど・アキュード]: Akibito* >Akímdo >Akíudo
仲人[なかうど・ナコード]: Nakabito* >(Nakamdo*) >Nakáudo
候ふ[さうらふ・ソーロー]: saburafu* >saurafu*
だらう・ダロー: d’aramu* >d’aram* >d’aráu
しよう・シヨー: semu* >sem* >seu* >sijóu
cf.
判官[はうぐゎん・ホーガン]: Xángwan >Xággwan
乱がはし[らうがはし・ローガワシ]: rangafasi* >raggafasi*
冷泉[れいぜい・レイ*ゼイ*]: Regzen* >Regzeg
面目[めいぼく・メイ*ボク]: Menboku* >Megboku*
天気[ていけ・テイ*ケ]: Tenke* >Tegke*
馬[うま・ウ゚マ >(むま・ンマ)]: Umá >(Mmá)
梅[うめ・ウ゚メ >(むめ・ンメ)]: Umay >(Mmay)

※韻尾としてn撥音が通常期待される字音に於けるウ/イは鼻音韻尾同士の混同(ang>agg, en>eg)として扱ってみたが、非常に悩ましい。


長母音に於いて、短母音がその段のまま長母音化した場合では同じ母音字を並べる。
カタカナによる音声転写に於いて長音符を使って表される長音もこれに含める。
ただし、既に歴史的仮名遣で引き音拍がウとされている場合は、uの添加とみなす。
参考: 上代特殊仮名遣

母さむ[かあさむ・カーサン]: Káasam
姉さむ[ねえさむ・ネーサン]: Néesam
兄さむ[にいさむ・ニーサン]: Níisam
ああ・アー: aa
おおい・オーイ(呼び掛け): ói >oói
いいえ・イーエ: iije
詩歌[しいか・シーカ]: Síka >Síika
まあ・マー(更に): ima* >ma* >maa*
cf.
斯う[かう・コー]: kaku* >kau/káu
然う[さう・ソー]: sa* >sau/sáu
如何[だう・ドー]: do* >dáu ※
まう・モー(既に): ima* fa* >máf
もう・モー(更に): ima* >ma* >mo* >mou
八日[やうか・ヨーカ]: Jauka
設ける[まうける・モーケル]: maukáyru
煮麺[にうめん・ニューメン]: Nimen* >Níumen
索麺>素麺[さうめん・ソーメン]: Sakumen* >Sáumen
茗荷[めうが(「みゃうが」とも)・ミョーガ]: Meka* >Meuga(Myaggaとも)
父さむ[とうさむ・トーサン]: Tóusam
女王[ぢょうわう・ジョーオー]: Dyovág >Dyouvág
名誉 >面妖[めんよう・メンヨー]: megjou* >menjou
狩野[かのう・カノー]: Karinaw* >(Kannaw*) >Kanawu
紀伊[きい・キー]: Kúyy

※『日本大文典』での「Dǒ(ダウに相当)」に従った。


助動詞「よう」は、拗音が直音二拍になったもの、あるいは「む」が「う」になった後に「よ」が挿入されたものとみなす。

しよう・シヨー: semu* >sem* >seu* >sijóu
上げよう[あげよう・アゲヨー]: agaymu* >agaym* >agayu* >agayjóu
見よう[みよう・ミヨー]: mimu* >mim* >miu* >mijóu


長音に於いて、維持されるべき綴りが不明または存在しない場合では、字音などに頻出する綴りを使って次の様にする。
ウ段長音: uu
オ段長音: ou
ア段長音: aa
イ段長音: ii
ウ段拗長音: iu
オ段拗長音: eu
ア段拗長音: yaa
この様にオ段長音に於いて開音より合音を優先するのは、前者にア段性が含まれることから。

焼売[しうまい・シューマイ]: Siumai/Syuumai(音声転写)/Shāomài(原語)
餃子[げうざ・ギョーザ]: Geuza/Gyooza(音声転写)/Jiǎozi(原語)


eiはエ段長音(エー)と二重母音(エイ)との両用に読まれ、eeはエ段長音でしか読まれない。

ねえ・ネー: née
ええ・エー: ée
背(勢)[せい・セイ*]: Sé >Séi
高え[たけえ・タケー]: takái >takée
寒え[さみい・サミー]: samúi >samíi
細え[ほせえ・ホセー]: xosói >xosée
良え[ええ・エー]: jói >jée


述語の直前などで一拍の体言が長めに発音される場合、それを規則的な発音とみなせる限り、長音ではなく短音として扱う。

歯ぁ磨けよ。: Xá migaké jo.
手ぇ上げろ。: Té agayro.
血ぃ出た。: Ti déta.

感謝: @Namkin_Maturyog


正書法(凡例)

原則
直音
拗音
促音
撥音
上代特殊仮名遣
アクセント
特殊な記号
アポストロフィ
外来音と外来語
分かち書きと大文字
Inglisc

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